私には中国人の先生が2人います。一人は中国語の先生、王悦さん。いつも、小王、小王と呼ばせてもらっています。2年半くらい前に初めてお会いしたときはまだ大学生かと思えるくらい若々しかったのですが、その時はお子さんを産んだすぐ後の頃だったのです。それにしては痩せていました。いまはその男のお子さんのわんぱくブリに振り回されて自分の時間が占領されてしまっていて立派なお母さんになっています。実は小王は中国太鼓の名演奏者なのです。2008年夏の北京オリンピックのときは開幕式でリーダーとして太鼓を叩いていました。日本に来てからは日本橋に音楽スタジオ・リズムランドを設立して運営し、日中交流の架け橋となっています。私の大好きな中国人映画監督張芸謀の映画「長城」に楽曲を提供して映画の中で自ら太鼓を叩いているのです。こんな凄い方に中国語を教えてもらえてとても光栄です。
もう一人の先生は戴茜さん。戴茜さんは私の古筝の先生です。私は普段は絵を描いているのですが、音楽もやってみたいな、と思って調べたところ東大阪市の文化人材バンクに登録されていて何と私の自宅から歩いて10分くらいのところに住まわれていたのです。戴茜先生も凄い方で中国の国家主席の前で演奏したこともある師範格の古筝の演奏者なのです。戴茜先生に初めてお会いしたときにはもう既に一人お子さんがおられたのですが、しばらくして2人目が生まれました。妊娠中に少しお太りになられた戴茜先生は、演奏会用のチャイナドレスが全部着れなくなっちゃう!と焦っておられましたが、糖質制限とランニングの成果で今やジーンズを軽やかに穿きこなすくらいにダイエットに成功されておられます。戴茜先生も古筝教室や戴茜古筝楽団の運営などを通して中国文化を日本に広める活動をされていて私も戴茜古筝楽団の青一点?として頑張っています。
さて日中国交正常化50周年を迎えるこの年の春にこの2人の先生にまつわるある”事件”が起こりました。その”事件”とは、大きな魚にまつわる事件だったのです。
まずは戴茜先生から4月の古筝の演奏会のお話がありました。戴茜古筝楽団として演奏する課題曲の中に「大魚」がありました。情緒たっぷりでとても切ない曲なのですが、曲の終盤で突然スピードアップする難曲なのです。この曲の話を小王にしたところ「大魚」は有名な中国のアニメ映画の主題歌であることを教えてくれました。そして何と中国語のレッスンのときに「大魚」の歌を歌って中国語の勉強をすることになったのです。そして中国語のレッスンでは「大魚」を歌い、古筝の練習のときには「大魚」を弾くという毎日が続きました。いったい私は何時間「大魚」と付き合っていたことでしょう?そしていよいよ古筝の演奏会の日を迎えました。大阪のクレアホールで行われた第7回中国音楽フェスティバルの4番手の戴茜古筝楽団の一員として私は勇ましく登場しました。私の席は舞台の一番左端で中国人女性の酒井さんの隣。そしてそして1曲目がこの「大魚」。私は終盤の難関も隣の酒井さんの音に合わせて見事に弾き切り、2人息を合わせて「大魚」を弾き終わりました!と思ったところが残りの楽団員は我々2人の後から少し遅れてフィニッシュ。どうやら我々2人だけスピードが少し速かったようでした。
自宅に帰りついてからしばらくは放心状態でしたが、我に返って映画の「大魚」を見ることにしました。幸いなことに簡単にネットで見ることができました。邦題は「紅き大魚の伝説」です。ちょっと日本の宮崎駿監督のジブリ映画に似たところもある生命の輪廻を描いた深い内容の映画でした。なるほど中国で大ヒットしたはずです。この曲を演奏会で演奏できたことに改めて深い感動を覚えました。
大きな魚の事件はまだ続きます。私の知り合いのシンガーソングライターの女性が、自宅の壁が真っ白で殺風景なので何か絵を描いてくれない、と頼んで来たのです。彼女は日本の古き良き長屋に住んでいて玄関横の横182cm、縦122cmのスペースが白壁だったのです(写真1)。私の普段絵を描いていて知り合いからは冗談のように、画伯、画伯とよばれています。ここは一発奮起して画家らしいところを見せてやろうと壁画を描きに行きました。この壁画のモチーフとして選んだのが大きなに魚だったのです。まず1日目は下絵として赤色系統のアクリル絵の具を使って大きな魚を描きました(写真2)。そしてアクリル絵の具が乾くのを待って2日目に今度は油絵の具を使って大きな魚の正体であるイルカらしく色付けしました(写真3)。壁画を描いている最中に道行く人に声をかけられたり、自動車がわざとゆっくり通り過ぎるのを心地良く感じながら存分に絵筆を振るわせてもらいました。ところがところがです。描き終わって部屋の中で涼んでいると、この友人の自宅の対面に住んでいるオバサンが玄関を開けて入ってきて、前の赤い魚の方がええわ〜、赤い魚に戻して〜、と言うのです。いやはや大きな魚は中国でも日本でも赤い方が人気のようです。赤い魚の方がお洒落ですよね。
この話を小王にしたらリズムランドにも是非壁画を描いて欲しいということになりました。リズムランドの壁は知り合いの長屋の壁の4−5倍あります。大きな魚だけでなく熊も鳥もトナカイも描くことができます。小王は壁に絵を描くための申請を出すと言っていました。もし壁画を描けるようになったら今度は赤い魚を描きたいと思います。完成したら是非皆さんに見に来て頂きたいです。日中の架け橋になるような絵を描きたいと思っています。